前传
#3087
「心の中のガラクタを捨てられない者は、あの店を訪れるといい。いつか、仲間にめぐり逢える」 そんな、マイナーな噂話があった。 誰も気に留めないような、あやふやで不確かな話。 けれど、周りとは少しだけ違う内面を持った彼らはその噂話に乗り、そして仲間を見つけた。 盛夏―― 「……何か悪いことねーかな」 ガランゴロンと騒々しく鐘が鳴る中、今日も “篤志部” の部室で、時守叶 (ときもり かなえ) はつぶやく。 聖天義(せいてんぎ)学園本校舎。 時を告げる鐘の真下、騒音のため学内の誰もが嫌うその場所に、篤志部の部室はある。 しかし学内に、その部を正式な名で呼ぶ者はいない。 学生たちはおろか、教師ですら。 代わりに彼らは、関わり合いになりたくないという苦笑と共に、こう呼ぶのだ。 『ギャング部』 誰が言い始めたのかは、不明ということになっている。 活動内容を怪しんだ生徒会だとも言われているが、実のところ一番有力なのは、当の部員たちの自称という説である。 そしてその説は、完全に正しい。 なぜなら副部長である叶こそが、名付け親なのだから。 ギャング部の部室には、ご丁寧に額縁に入れられて、こんな言葉が掲げられている。 ――邪悪であれ。 “悪が世界を変える” と信じている叶の発案によるスローガンであり、ギャング部のただ1つの行動原理である。 ある時は、子供たちの遊び相手になると称して、若い貴重な時間を奪い―― またある時は、おばあちゃんの引っ越しを手伝うと称して、お礼にお菓子をせしめる。 これが、彼らの “悪”。 学園内で。 商店街で。 駅前で。 街中で。 ギャング部の面々は、悪を成す。 なぜなら、悪であることは、仲間であることの証だから。 心の中のガラクタを捨てられない彼らは、悪の名の下にめぐり逢った仲間なのだから。 だから今日も、叶はつぶやくのだ。 「……さて、悪いこと、探しに行くか」 仲間と共に、悪党どもの共和国 (ギャングスタ・リパブリカ) での時間をすごすために。
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